2011/03/30

HTML5はFlashの脅威か?エバンジェリストに聞いた

アドビがFlash Catalystで考えていること

HTML5はFlashの脅威か?エバンジェリストに聞いた


2009年09月14日 20時48分更新
文● 小橋川誠己/Web Professional編集部

かつてFlashの専売特許だったRIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)の世界が激変している。JavaScriptの高速化が進み、jQueryやYUI(Yahoo! User Interface Library)、Ext JSなどのフレームワークを使ったAjaxアプリケーションは珍しくなくなった。2012年にW3C(World Wide Web Consortium )が勧告を目指している「HTML5」をめぐる動きも、ここのところ活発化している。
こうしたライバルたちの動きを、アドビ システムズはどう見ているのか? 2010年に発売する新しいデザインツール「Flash Catalyst」のPRのため来日した、米アドビ システムズのシニア プラットフォーム エバンジェリストであるエンリケ・デュボス氏に話を聞いた。


HTML5の完成には10年かかる


――ここ数年でRIAの環境が大きく変わっています。最近はjQueryやExt JSなど、Ajax/JavaScriptを使った“プラグインレス”のRIAにも勢いがあり、Flashが売りにしていた「プラグイン普及率の高さ」の意味が薄れているようにも思います。改めて、Flash/Flexの強みはどこにあるのでしょうか。
エンリケ・デュボス氏
米アドビ システムズ シニア プラットフォーム エバンジェリスト エンリケ・デュボス氏
確かに、HTMLコンテンツとインターフェイスが単純に結びついている場合は、Ajaxで十分かもしれませんね。XML、JavaScript……Ajaxを構成する技術には何も新しいものはなく、シンプルですぐに使えるのがAjaxのいいところです。
一方、Ajaxの弱点は、JavaScriptが過去から抱えてきた問題をそのまま引きずっていることです。JavaScriptのブラウザー間の互換性にはまだ問題がありますし、高速化が進んだとはいえ、パフォーマンスも十分とは言えません。クライアント側で大型のデータセットを処理しなければならないときに、パフォーマンスの問題は特に重要です。しかも、Ajaxは“フレームワークの分断化”が起きている。さまざまなフレームワークが乱立した結果、開発者にとっては非常に学びにくい状況になっています。
Flash/Flexの強みは「JIT(Just-In-Time)コンパイルを処理するバーチャルマシンである」ことなので、JavaScriptよりもFlashのほうがパフォーマンス面で優位です。(中間ファイルを生成するFlashに比べて)JavaScriptのほうがファイルサイズは小さいかもしれませんが、スループットで見たときに、同じCPUやメモリでより多くの処理を効率的にこなせるのはFlashです。また、開発者は単一のフレームワークさえ習得すればいい、という利点もあります。
もちろん、ベクターグラフィックスやエフェクトの処理、3Dグラフィックスの描画、HD動画の再生といった機能も、Flashならではの魅力です。JavaScriptやHTMLが抱えてきた問題に縛られずに、より柔軟にコンテンツを作れます。


――最近動きが活発になっているHTML5についてはどう見ていますか? HTML5はアドビにとって脅威となるのでしょうか。
HTML5の基本的な考え方は「Webの進化を加速していく」ということですから、アドビはHTML5をサポートしていますし、W3Cのワーキンググループ(WG)に参加しています。
HTML5の動向はポジティブに、同時に慎重に見守っています。HTML5の意義は、今までのHTMLがずっと抱えてきた問題に対処する、という点にあります。Webブラウザー間の分断化、互換性の無さを解決するのが、HTML5の1つの役割です。そういった意味ではHTML5をポジティブにとらえています。
ただ、HTML5はいろいろな問題を抱えています。肝心の「ブラウザー間の互換性をどうとるか」との問いに対する解決策はまだ示せていません。HTML5の目的が「スタンダードでオープンなWebを実現すること」だとしたら、HTML5をサポートするブラウザーはどれも一貫した実装をする必要があるはずです。しかし、HTML5のどの部分がすべてのブラウザーに実装されるのか、まだ分かりません。
HTML5の完成には、あと10年はかかるでしょう。アドビはHTML5のWGのメンバーとして必要な作業をしていきますが、一方ではFlashプラットフォームのイノベーションを続けていきます。


――グーグルなどのHTML5推進派の主張を聞いていると、まるで「Flashはもう要らない」と言っているようにも聞こえます。
それはグーグルの主張ですよね(笑)。たとえば先日、videoタグのことが話題になっていましたが(※)、HTML5でvideoタグを追加すること自体はWGで合意している。ところが、どのコーデックを使うか? ということになると何も決まらなかった。コーデックが決まらないで、ユーザーはどうやってビデオを楽しめるのでしょうか?
HTML5は単に新しいタグが増える、という簡単なものではありません。実は、その裏で決めなければならないことがたくさんあります。ストリーミングなのか、ダウンロードなのか? あるいはビデオにインタラクションを付けるにはどうしたらいいのか?
「ビデオが見られること」自体は何も新しいことではありません。何年も前から、インターネットでビデオは見られました。しかしフォーマットもプレーヤーもバラバラで、ユーザーが得られる体験(ユーザーエクスペリエンス)は最低でした。そうした状況を変えたのはFlashです。Flashビデオが普及したことで、もう誰もフォーマットに悩む必要はなくなった。ユーザーはビデオの視聴やインタラクティブな体験を一貫して楽しめるようになったのです。
videoタグはあくまでも一例ですが、HTML5にはさまざまな動きがあり、課題が山積しています。



※=2009年7月、HTML5の草案からはvideoタグ/audioタグのビデオコーデックに関する要件が削除された。





「我々はイノベーター」

――Flash Catalystでワークフローを改善


――Flashファミリーの新しい製品として、UIデザインツール「Flash Catalyst」が発表されました(現在、パブリックベータ版が公開中)。Catalystはどのような問題意識から生まれたツールなのですか。
Flash Catalystは、Webアプリケーションを作るプロセスに「隙間がある」との考えから生まれたツールです。我々はCatalystによって、Webアプリケーション開発のワークフローを改善したいと考えています。
一般的にWebアプリケーションを作る場合、まずインターフェイスデザイナーやインフォメーションアーキテクトがワイヤーフレームを設計し、画像などのスタティックな素材を開発者に渡します。現状では、開発者は受け取った素材とワイヤーフレームをもとに、動的なアプリケーションのUIに作り直さなければなりません。UIの実装が終わってからデザイン上の変更が出たら、一度デザイナーに戻して作り直す必要もありました。
Catalystは、PhotoshopやIllustratorで描いた画面カンプを取り込み、ステートを定義したり、アニメーションを付けたりして、アプリケーションのUIをデザインできます。完成したUIはそのままFlex Builderへ出力し、動的な状態で開発者に渡せます。開発者の作業負担は軽くなりますし、デザイナーは自分が作ったUIを振る舞いの部分まできちんと面倒が見られるようになります。ワークフローの隙間を埋めることで、開発にかかる時間も短縮できるでしょう。
Flash Catalyst
Flash Catalystは、Illustratorなどで作成した画面カンプを取り込み、動きのあるUIをデザインできる(画面は米アドビ システムズが公開しているデモビデオから)


――ワークフローという観点では、Catalystの機能はFlash ProfessionalやFireworksなどの既存のデザインツールにアドオンするほうが自然に思えます。新しいツールを増やすことで、ワークフローはかえって複雑になりませんか?
たとえばFlash Professionalは、リッチコンテンツを作るには柔軟性があって便利ですが、アプリケーションのUI設計を担当するインフォメーションアーキテクトやクリエイティブディレクターの多くは操作に慣れていません。キーフレームを切ったり、スクリプトを書いたり、といった作業をFlashデベロッパーやFlashデザイナーに依頼する必要があります。我々がCatalystで目指したのは、コードを一切書かずに、UIにインタラクションを加えられること。Flash Professionalの操作に慣れていないデザイナーに、「UIをデザインするためにまずFlash Professionalを覚えろ」というのは難しい話だと思います。
Catalystを作ることで、これまで触れたことがない新しいユーザーにもFlashを使ってもらえる。同時に、IllustratorやPhotoshopなどのデザイナーが使い慣れたツールをそのまま使えるようにしたのです。


――「ワークフローの改善」という主張は、マイクロソフトがSilverlightで主張していることに似通っているように聞こえます。
最初にお断りしますが、我々がマイクロソフトの真似をしているということはありません。我々は「イノベーター」を自負していますし、そもそも「RIA」は、もともとアドビ(旧マクロメディア)が定義した言葉です。先日、Silverlight 3が発表されましたが(関連記事)、何か目新しい機能があったでしょうか? 個人的には「(Silverlight 3の新機能は)Flash Player 10の機能に似ているな」という印象を持ちました。Flash 10はすでにリリースしてから何カ月も経ち、普及率も75%を超えています(関連記事)。
Flash/Flexは、(Silverlightが得意とする)エンタープライズの環境でも広く使われています。Flash/Flexはサーバーサイドの技術はJavaでもPHPでも構いません。開発ワークフローの観点で見ても、当社のツール製品はMacとWindowsの両方に対応しています(※)。つまり、デザイナーや開発者を特定のプラットフォームに縛りません。


――最後に、Catalystの今後の展開を教えてください。
Catalystはまだ最初のベータ版が出たばかりで、製品として発売されるのは2010年の予定です。現段階でデザイナーや開発者の皆さんにお伝えしたいのは、「とにかく一度試してみてほしい」ということです。なるべく多くの皆さんからフィードバックをいただき、よりよい製品に仕上げていきたいと考えています。



※マイクロソフトのExpression StudioシリーズはWindows版のみ提供されている。

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